【幻夏】あの日に消えた少年は【感想】

本紹介
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幻夏

タイトル:幻夏
著者:太田愛
ジャンル:ミステリ
初版発行日:2013年10月

おすすめな人
切ない物語が好きな人
細部まで練られたミステリが読みたい人

著者は「TRICK2」や「相棒」の脚本家!

あらすじ

刑事の相馬には、23年前の夏休み、共に過ごした友人がいた。
尚と弟の拓との夏は幻のように美しいものだったが、その尚は夏の終わりに姿を消してしまう。
俺の父親、ヒトゴロシなんだ。
そう言った尚の捜索を、彼の母親、香苗が相馬の友人である鑓水に依頼した。
23年前の失踪事件。それはある一家を壊した一つの冤罪事件に繋がっていた。

一つの冤罪事件から始まる物語

物語は、興信所を営む鑓水への依頼から始まります。
依頼者は水沢香苗。彼女は行方不明の息子を探してほしいと依頼します。しかしその息子、尚がいなくなったのは23年も前のことでした。

一方、刑事である相馬は一つの事件に遭遇します。
12歳の少女が誘拐され、その場には「// = |」のマークが残されていました。
相馬にとってそのマークは忘れられないものでした。
23年前の夏、友人の尚が消えた場所に残されていたのが「// = |」だったのです。

少女の誘拐と尚の失踪に関係があると確信した相馬は、鑓水と彼の部下の修司と共に二つの事件を探り始めました。

相馬は23年前の12歳の時、尚と弟の拓と友人になり、輝かしいひと夏を過ごしました。
しかしある日、尚は相馬に言います。
「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」
母の離婚した父親は殺人犯であり、そのために尚たち三人の家族は厳しい生活を強いられてきました。

しかし、相馬は、尚の父親が逮捕されたのは冤罪だったのだと鑓水から知らされます。

作中では日本の司法のあり方について深く問われています。

捜査機関が集めた証拠のうち、どれを開示するかは検察官の判断に委ねられる。そのため、冤罪と判明した事件では、被告人に有利な証拠が裁判で提出されなかったケースがいくつもある。被告人に有利な事情は供述調書にはまず書かれない。
日本の裁判の現状は、有罪率九十九%。
「十人の真犯人を逃すともひとりの無辜を罰するなかれ」
そんな法格言は絵に描いた餅である。

冤罪による罪を負わされた人、そしてその家族。今の司法が彼らにとってどれほど残酷な体系を示しているかを深く訴えている作品です。

胸を締め付ける切なさ

相馬には、どうして尚がこんな事をしなければならないのか解らなかった。だが、尚のあまりに一心に張りつめた姿に、相馬は声を掛けることができなかった。
もうよせ、もうよせ、そう心の中で叫びながら、相馬はただ尚を見上げているしかなかった。
もうよせ、死んでしまう。
指笛が不意に鳴りやみ、微かな谺が跳ね返って消えた。

幻夏/太田愛

作者は、あの有名ドラマ「TRICK2」「相棒」の脚本家として知られています。
そのためか、細やかな心情表現が目を引き、心を奪います。
12歳の尚が台風の夜に指笛を吹くシーンは幻想的で不安定で、とても切ないシーンです。

また、随所にちりばめられた伏線がその人情味を際立たせています。
読み終わった後も、思い返して隠された意図に気付き、それが一層感動を呼び起こす仕掛けになっているのです。

とても苦しい作品です。辛くて悲しい作品ですが、展開が二転三転し、予想もつかないストーリーが待ち受けています。
父の冤罪のため、苦しい人生を負わなければならない少年の孤独な闘い。
美しいラストを是非その目で見てみてください!

読後は圧倒されてため息がでます!


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