悪いものが、来ませんように――。
読み終わったり全てを知った頃、タイトルの深さに気付かされます。
悪いものが、来ませんように
タイトル:悪いものが、来ませんように
著者:芦沢 央
ジャンル:ミステリ
初版発行日:2013年8月25日
おすすめな人
・イヤミス好き
・家族の正常な関係について考えたい
表紙とタイトルからホラー感がありますが、ホラー作品ではありませんでした!
あらすじ
恋人の大志と上手くいかず、望んでも子を授かれない紗英。
子どもの世話をしながら、周囲にうまく馴染めない奈津子。
寄り添う気持ちは次第に狂気へと変化し、やがて恐ろしい事件へと至る。
自己保全に走る人々
紗枝は奈津子のことをなっちゃんと呼び、異常なほどに心酔しています。
なっちゃんを馬鹿にしたからと彼氏と別れ、友人とも距離を置き、なっちゃんに嫌われないよう生きてきました。
助産院に勤めながら、紗枝はなかなか子どもを授かれません。しかし、今は仕事を優先したいからと口にし、落胆を奈津子には見せません。
そして奈津子は子どもを育てながら、子どもはいいものだと紗枝に語り続けます。幸せな家庭の姿で紗枝を優しく見守ります。
しかし奈津子も周囲のコミュニティにうまく溶け込めない面があり、生き辛さを覚えながらそれを紗枝には隠し続けています。
序盤で明かされているのは、奈津子がなんらかの事件を起こした、という点です。紗枝と奈津子の物語を中心に、近くにいる人々が事件について語る展開となっています。
彼らは各々の視点から奈津子について意見を述べていきます。
人々に共通しているのは、自分を守ろうとする意識です。彼女がああなったのに、自分は関係ない。肉親ですら事件に関与する可能性を否定し、責任を放棄します。
そこに人間の嫌な面がちりばめられ、世知辛さや生々しさが感じられます。
歪んだ家族愛
紗枝は奈津子に嫌われないように、そして奈津子は紗枝に嫌われないように、異常な家族の形を見せます。
二人の関係性は、初見ではまず騙されるでしょう。
読んでいて「あれ?」と思う点がいくつかありますが、それらは全てラストに向けて回収されていきます。なるほど、そういうことか。納得しつつも、なんだか重たい塊が胸に詰まった読後感。
続きが気になりすらすら読めますが、なかなか沈んだ気持ちにされる作品です。
これがイヤミス……ってこと!?
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