【夜市】心に迫る和風ホラー×ファンタジー【感想】

本紹介

夜市

「今宵は夜市が開かれる」
そしてひとならざる者が集う夜市に、青年は向かう。
かつて売った弟を買い戻すために。

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タイトル:夜市
著者:恒川光太郎
初版発行日:2005/10/25
ジャンル:ホラー・ファンタジー
第12回日本ホラー小説大賞受賞作

おすすめな人

  • 切ない話が好き
  • 和風のローファンタジーが読みたい

あらすじ

主人公のいずみは、同級生の裕司に誘われ、夜市に向かう。
しかしそれはただの夜市ではなく、人ではないものが集まる「生きた」夜市だった。
どんなものでも手に入るという夜市では、何かを買わなければ出ることが出来ない。
そして裕司は幼い頃、野球選手の器と引き換えに夜市で弟を売った過去を持っていた。
人々の記憶から消え、存在さえなきものとされた弟を、果たして裕司は連れ戻すことが出来るのか。

ジワリとした和風ホラー

「何も買っていないんだろう。出られやしないよ。この夜市は生きているんだ。ここは取引をする場所なんだよ。家に帰りたければ取引をするんだ」

夜市/恒川光太郎

夜市は第12回日本ホラー小説大賞の受賞作で、ファンタジー要素を含みながら不気味さも兼ね揃えています。
人外の者たちが集う市場の物語といえばありふれているように思えますが、夜市の深みにはまっていくにつれて、その不気味な設定や世界観に引き込まれます。
夜市は生きている。あらゆるものを扱っているこの場では、何かを買わなければ抜け出すことはできず、最後には夜市の一部となってしまいます
数少ない登場人物の意外な繋がり、裕司の切ない後悔、そして綿密に練られた世界観。
裕司は弟を連れ戻せるのか。無事に夜市を抜け出せるのか。
いつの間にか夜市の世界に没頭してしまうこと必至です。

風の古道

この本には、もう一つ、「風の古道」という話が収録されています。
夜市に似た和風ダークファンタジーさを持つこの話も、非常に面白い作品でした。

あらすじ

主人公の少年は、7歳の頃、ひょんなことから「古道」を通って家路に着いた。
12歳になった彼は、親友の「カズキ」と共に、再度「古道」を訪れる。
しかし、本来普通の人間は通ることが出来ない古道から、二人は出られなくなってしまう。

そこで出会った永久放浪者の「レン」に案内されて出口を目指すが、途中でレンの敵との戦いに巻き込まれ、カズキが撃たれてしまう。
レンの話では「雨の寺」に行けば死者を蘇らせることができるそうだ。
親友を生き返らせるべく、不思議な古道を進んでいくが――。

意外な展開とキャラクターの繋がり

こちらも設定だけを見れば、珍しい小説ではないように思えます。
しかし「夜市」同様、そこには決してありがちではない細やかな設定が練られています。
古道とはなんなのか、そして永久放浪者である「レン」は何者なのか。
「永久放浪者」という聞き慣れない単語は、夜市の中にもちらりと登場し、この話で説明が成されています。この世には、不思議な夜市や古道が隠れているのでは、と思わせます。
レンの過去、そして明らかになっていく人と人との意外な繋がり、そしてカズキを無事に生き返らせることが出来るのか、古道を抜けて元の生活に戻れるのか。疑問は尽きません。
是非一気読みしてみてください。

まとめ

どちらの作品も、手放しのハッピーエンドを迎えるラストではありません。
その点では、誰もが幸せになる大団円を期待する人には向かない一冊かもしれません。
しかし読み終えた頃には、このラストでしか味わえない切なさや、読後感に浸ることが出来るでしょう。

いつか映像化してほしいなあ。

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