【天使の囀り/貴志祐介】天使の声が死を告げる【感想】

本紹介
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天使の囀り

タイトル:天使の囀り
著者:貴志祐介
ジャンル:ホラー
初版発行日:1998年7月1日

おすすめな人
じわじわ迫るホラー作品が読みたい人
バイオホラーに興味がある人

あらすじ

北島早苗は、ホスピスで終末期医療に携わる精神科医。恋人で作家の高梨は、病的な死恐怖症だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど恐れていた「死」に見せられたように、自殺してしまう。さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と以上の方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンで、いったい何が起きたのか?前人未到の恐怖が、あなたを襲う。

天使の囀り/KADOKAWA文庫裏表紙

豹変した恋人の死

HIV患者専門のホスピスで働く早苗に宛てた、恋人の高梨からの手紙という形で物語は始まります。
紀行文を書くためにアマゾンの探検隊に加わった彼の手紙は至極丁寧に綴られ、早苗への紳士な態度や控えめな性格がうかがわれます。高梨と早苗の関係は作家とファンという繋がりから始まり、早苗は高梨の作家としての活動を応援しつつ見守ります。

しかし、日本へ帰国した高梨は様子が変容していました。
禁煙家のはずが喫煙を始め、異常な食欲を見せ、早苗に対する情欲的な態度を押し通し、ときおり意味の分からない言葉を口にする。そして彼は早苗に、「天使の囀り」が聞こえると言いました。しかし、早苗にそんなものが聞こえるはずがありません。
そして、異様なまでに「死」を恐れる「死恐怖症」である彼が、自殺を遂げてしまったのです。
やがて高梨と共にアマゾンを訪れた者たちを中心に、不審な死の連鎖が続いてくことになるのです。

秀逸なバイオホラー

本作はバイオホラーとも呼べる作品です。私は死が感染していく「リング」や「らせん」を思い浮かべました。
高梨たちは、アマゾンでやむを得ず一匹の猿を殺して食しました。その猿、「ウアカリ」は、ぱっと見に異様な姿をしています。真っ赤な顔、毛むくじゃらの身体に似合わずハゲた頭。ウアカリで検索しただけで、本作品に関するワードもヒットします。

ウアカリ(引用:wikipedia)

猿をアマゾンで食べる冒頭だけでぞっとしますが、更にウアカリを食べた者たちは悲惨且つ凄惨な死を遂げていくのです。
そして死の連鎖は広がっていくのですが、あらゆる専門分野の情報を用いてその経緯が描写されていきます。どれだけ調査と取材を繰り返したのだろうと思うと同時に、それを物語に落とし込む貴志氏の頭の良さに脱帽です。

また専門的な分野だけでなく、人物の描き方も見事でした。
夜勤のアルバイトで生計を立て、出来る限り人との接触を避けて部屋に引きこもり、恋愛シミュレーションゲームに勤しむ青年の解像度の高さに、初版発行が二十年以上前という時の流れを感じながらも現代に通じるものを感じました。自分の中に閉じこもり、理想の世界に没頭する人間の心象描写が非常にリアルでした。
専門性から描写力まであらゆる面で、貴志祐介という作家のハイレベルな実力を感じられる作品でした。

ネタバレあり

最後に早苗は感染していたのでしょうか?
依田はアフリカ脳線虫入りミルクは飲ませ損ねましたが、コーラを渡すことには成功しています。しかし缶のタブを開ける描写があるため、コーラは問題なかったのかもしれません。ならその前に飲ませた薬草茶は…?

また早苗は康之少年に線虫を感染させたのでしょうか?死の直前、天使の囀りを少年は聞き、その姿も目にしました。
既に早苗が感染していたのなら、感染者を増やそうとしたのか。
はたまた、ただ少年を死の恐怖と苦しみから逃すために感染させたのでしょうか。しかし、あんなに恐ろしい感染者の最期を目にして、そんなことができるのか?
もしくは少年が天使の囀りを聞いたのは、朦朧とした意識で感じた、ただの偶然だったのかもしれません。

考察が非常に捗るのに、結局答えが得られないのですが、それが作者の思惑なのでしょう。
流石、日本ホラー小説大賞を受賞した作家の作品でした。

500ページを超えますが、先が気になって仕方がなくなります!

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