【あなたが殺したのは誰/まさきとしか】時を超えて事件は繋がる【感想】

ミステリ
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あなたが殺したのは誰

タイトル:あなたが殺したのは誰
著者:まさきとしか
ジャンル:ミステリー
初版発行日:2024年2月

おすすめな人
人物の背景がしっかりしたミステリが好き
刑事コンビものが読みたい

あらすじ

中野区のマンションで女性が殴打され、意識不明に。長澤美衣紗という名の彼女はシングルマザーで、十ヵ月の娘、しずくは連れ去られる。現場には「私は人殺しです。」と書かれた便箋が残されていた。
時は遡り、一九九〇年代初頭。北海道の鐘尻島では巨大リゾート「リンリン村」の建設が頓挫し、老舗料亭の息子、小寺陽介は将来に不安を感じていた。多額の借金をして別邸を建てた父は大丈夫なのか。そんな折、リンリン村の鉄塔で首つり死体が発見される。
バブルに翻弄される離島と現在の東京。二点を貫く事件の驚くべき真相とは。抗えぬ生と死を描く圧巻の長編。

あなたが殺したのは誰/小学館文庫裏表紙

現代の東京と過去の離島で起きた事件

東京のマンションの一室で、頭を殴られ倒れているところを発見された長澤美衣紗。
そして彼女の0歳の娘、しずくが行方不明となりました。
美衣紗を殴った人物、そしてしずくの捜索のため、本作も田所岳斗と三ツ矢秀平の二人の刑事はコンビを組むことになります。現場には「私は人殺しです。五十嵐善男」と書かれた便箋が残されていました。
五十嵐善男というのは、約二ヶ月前に八王子の自宅で強盗に殺害された人物の名前です。そして五十嵐を殺害した犯人もまだ逮捕に至っていません。
既に殺された五十嵐善男が長澤美衣紗を襲えるはずがありません。そのうえ、五十嵐は殺害された被害者です。
この二人には、そしてこの二つの事件にはどういった繋がりがあるのか? しずくは一体誰に攫われてしまったのか?

物語は、東京と1990年代のとある離島での出来事が交互に語られていきます。

北海道の離島「鐘尻島」にある料亭「帰来亭」の跡取り息子である高校生の小寺陽介は、店を切り盛りする両親と祖父を手伝って日常を過ごしていました。
当時、島にはリンリン村という一大リゾート地を建設する計画が立ち、既に工事も始まっていました。島民たちはこの小さな離島に多くの観光客がやって来ると期待し、陽介の父親も料亭の別邸を建てるほどに張り切っていたのです。
しかしリンリン村の工事は資金面の問題から頓挫し、再開の兆しもありません。作りかけの建築物を残し、やがては工事の中止が言い渡されます。
そして島民たちの期待の裏返しのように、工事跡地で自殺者が出てしまいます。
島の雲行きはリンリン村の頓挫から急速に怪しくなり、次々と不幸な事件が起こっていくのです。

一見、何の関係もなく、それどころか時間軸も異なる東京と北海道の出来事。語られる以上、無関係なはずがなく、岳斗と三ツ矢は次第にこの二つの点を結んでいきます。

若手刑事の田所岳人は、シリーズを通し変わり者の先輩刑事、三ツ矢の相棒を務めます。三ツ矢は瞬間記憶能力の持ち主であり、丁寧でありながら自由奔放で周囲を意に介さない。しかし類まれなる観察眼で事件を暴いていく三ツ矢に、岳人は胸に認められたいという気持ちを抱きつつ捜査を共にしていきます。

それぞれの人生と苦悩

長澤美衣紗は、元夫の不倫とDVを原因に、生後十ヵ月の娘のシングルマザーとなりました。しかし彼女が何者かに襲われた部屋のキッチンはゴミだらけで、育児をしながら生活を立て直す苦労がうかがわれます。

一方、鐘尻島の小寺陽介は、自分は帰来亭を継ぐのだと信じ、無自覚のまま家族に対し非常に献身的な少年です。だからこそ、祖父の反対を押し切って借金までして別邸を建てた父を心配し、リンリン村の開発中止が自分たちにもたらす不幸を懸念します。

鐘尻島のターンでは、更に重要な人物が現れます。
常盤由香里は、島でただ一つの洋食レストランの主人を旦那に持つ専業主婦です。小学生の娘、結唯と三人で生活しています。
しかし彼女は島での田舎生活に多大な不満を持ち、その矛先は思い通りにいかない娘の結唯に向けられます。
ママの機嫌を損ねないよう心を砕く結唯の健気さと、不満から精神不安定に陥る母親の由香里。母娘の描写も、鐘尻島の鬱屈とした空気を象徴する一因です。

子どもの頃からずっと不思議だったのですよ。母親は常に完璧を求められるのに、父親はそうではない。むしろ、子供を引き取っただけで、いえ、もっと言うと子育てをするだけで賞賛される。――中略―― 母親はできていないところを見られ、父親はできていることを見られるのだろう。そんなことを考えていました」

あなたが殺したのは誰/まさきとしか

シングルマザーの美衣紗が倒れていたキッチンの汚れを見て、周囲は子どもがいるのにだらしない親だという感想を抱きます。しかし三ツ矢はそこに疑問を持ちました。

例えば子どもに持たせる弁当。父親が作れば甲斐甲斐しく子どもの世話を焼くお父さんだと周囲は感心しますが、それが母親であれば当然だとみなすでしょう。客観的かつ合理的に物事を捉える三ツ矢の台詞には隠れているものを暴くものが多く、その客観性が大きく物語を動かします。

本作のテーマには母親のあり方、周囲からの捉えられ方が深く根差しています。子どもを愛し、尽くして当然。そうでなければ非道な親だ。私たちが「母親」という存在に対する思い込みやこうあるべきという姿に改めて疑問を抱かせる作品となっています。

様々な人間関係が入り組みつつ、やがて一つの収束に向かって行く様は、疾走感を持ちながら丁寧に描き出されていきます。

今後も続いてほしいシリーズ!

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