【地面師たち】実在の事件をベースにした作品【感想】

本紹介
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地面師たち

タイトル:地面師たち
著者:新庄 耕
ジャンル:ミステリ
発表年:2019年12月5日

おすすめな人
実在の事件ベースの本が読みたい人
魅力的な悪役に興味がある人

あらすじ

ある事件で妻子を亡くした拓海は、大物地面師・ハリソン山中のもとで不動産詐欺を行っていた。次に狙うのは市場価値100億円という前代未聞の物件。一方、定年間近の刑事・辰は、彼らを追ううちにハリソンが拓海の過去に関わっていたことを知る。一か八かの詐欺取引、難航する捜査。双方の思惑が交錯した時、衝撃的な結末が明らかに――。圧倒的なリアリティーで描く、新時代のクライムノベル。

地面師たち/集英社文庫裏表紙

地面師とは

地面師とは、土地の所有者のふりをして勝手にその土地を売りさばき益を得る詐欺師のことです。
主人公の拓海は地面師グループの一員として、不動産屋に勝手に土地を売りつけます。主な仕事仲間は、共に交渉役である後藤、狙う土地をピックアップする竹下、偽物の地主を用意する麗子、そしてリーダーであるハリソン山中。一度に数千万円から億単位に及ぶ金をだまし取り、ほとぼりが冷めるまで海外などに身を潜め、再び次のターゲットに魔の手を伸ばす、まさに悪徳詐欺師たちです。

拓海は元々、普通の社会人でした。会社に勤め、妻子と共に幸せに暮らしていた彼は、ある事件から妻と子を失います。心をすり減らした彼の前に現れたのが、ハリソン山中でした。あっという間に拓海は悪の世界に堕ち、詐欺師となってしまいます。
嘗てハリソン山中を追っていた定年間際の刑事である辰、そしてとある大手不動産会社に勤める青柳といった人々が、物語の一端を担います。騙す者と騙される者、そして追う者。三者三様の人間模様が楽しめるのもこの作品の魅力ともなっています。

実在の事件「積水ハウス地面師詐欺事件」

本作「地面師たち」は実際の事件を下敷きとしています。
2017年6月1日に発生した「積水ハウス地面師詐欺事件」では、積水ハウスが地面師グループに55億5千万円もの大金を騙し取られました。
積水ハウスは東京都品川区の旅館「海喜館」の所有者を名乗る女と売買契約を締結し、金を支払います。しかし本当の所有者は既に死亡していたのです。まさに事実は小説よりも奇なりといった事件ですが、「地面師たち」を読むとより実在の事件も掴みやすくなるのが不思議です。
本作品自体はフィクションですが、非常にリアリティのある描写に引き込まれ、詐欺の恐ろしさを実感します。


また何と言っても、ハリソン山中という人物の不気味さが際立ちます。頭脳明晰なキャラクターですが、嗜虐性が強く人を傷つけることに一切の躊躇もなく、いわゆるアスペルガー症候群のようにも見えます。この不気味なリーダーの男は地面師たちを自在に操り、詐欺というゲームの中に喜んで身を投じているのです。


果たして拓海は今後どんな道を選ぶのか、地面師たちはどうなっていくのか。そうした人間模様のみならず、恐ろしい詐欺の模様、自分が今後他人に騙されないためには一体どうすればよいのか――。あらゆる面で考えさせられる一冊でした。

実際に存在する詐欺だと思うと、更に臨場感が増しました

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