営繕かるかや怪異譚
タイトル:営繕かるかや怪異譚
著者:小野不由美
ジャンル:ホラー
初版発行年:2014年12月5日
おすすめな人
じんわりとした和風ホラーが好きな人
読みやすいシリーズものに挑みたい人
あらすじ
伯母から受け継いだ町屋に一人暮らす祥子。まったく使わない奥座敷の襖が、何度閉めても開いている(「奥庭より」)。古色蒼然とした武家屋敷。同居する母親は言った。「屋根裏に誰かいるのよ」(「屋根裏に」。ある雨の日、鈴の音とともに袋小路に佇んでいたのは、黒い和服の女。あれも、いない人?(「雨の鈴」)。
営繕かるかや怪異譚/角川文庫裏表紙から抜粋
あらゆる家で起こる怪異
本作は家や敷地内で起こる怪異を、とある人物が解決していく連作短編集です。
一話目の「奥庭より」では、亡き叔母から受け継いだ古い家での出来事です。
生前の叔母から「大切なものがしまってある」「絶対に入ってはいけない」と言い聞かせられていた奥座敷。そこは二棹の箪笥で入ることができないよう、封じられていました。しかし、誰も入っていないはずの部屋の襖が小さく開いている。何度閉めても気付けば開いている。そしてある時、中から襖を引っ掻く音と、開いた襖の奥に人の姿を見てしまうという怪異譚です。
全6編の物語は、家の中に突如出現する老人、鈴の音と共に玄関に訪れお悔やみを告げていく喪服の女など、心霊スポットや事故現場を訪れるのではなく、普段の生活の中で体験する恐ろしいお話です。
それらは登場人物たちの日常の一部に接しているからこそ、簡単に逃れることができず、彼らの現れる根源すら不明です。
引っ越したばかりの家、また、容易に引っ越せない事情がある人物たちは、最終的にある営繕職人に出会います。
営繕 かるかや
「営繕」とは、「建築物の営造と修繕」のことをいい、具体的には、建築物の新築、増築、修繕及び模様替えなどの工事を指します。
怪異に悩む彼らは最終的に、「営繕 かるかや」の尾端(おばな)という若い男に出会います。
しかし彼は営繕を生業とするだけの人物であり、お祓いはおろか幽霊を視るような霊感すら持ち合わせていません。
この点が本作の一つの特殊な点です。
心霊現象をお札や超常的な力で解決するのではなく、自宅を営繕することで安心できる生活を取り戻す。そこに幽霊のお祓いや成仏といった点が必ずしも目的とされていないのも新鮮でした。
最終的に、住人が納得できる方法で住宅を改築し、以降も怪異と共存する。そういった解決を迎える作品もあります。力尽くで怪異を追い払うのではなく、依頼人である住人たちも納得し、受け入れ、不安のない生活を取り戻す。誰にも相手を傷つけ苦しめようという悪意はなく、不運な巡り合わせを修正するような、優しさや工夫がひしひしと感じられる作品です。
中には切なく儚い幽霊物語もありますが、最後まで意図の不明な不気味な話もあります。
その「なぜ」が不明なものも、この6編をそれぞれ1本の作品として独立させ、展開のワンパターンを避ける一因となっています。尾端が一体どうやってこの事態を解決するのかと、読者も住民目線で期待しつつ読み進められるところも、本作を読む楽しさの一つです。
注目のシリーズ
「営繕かるかや怪異譚」は現時点(2025年8月31日)でシリーズ4作目まで刊行、累計40万部を超えるヒットシリーズです。中身の面白さはもちろん、キャラクターの立ち方、そして非常にマッチした表紙のイラストが目を引きます。
表紙画の作者は「漆原友紀」さんで、こちらも大ヒットシリーズ「蟲師」を手がけた漫画家さんです。漫画は1~10巻で完結しており、数々の賞を受賞しています。アニメ化、映画化、ゲーム化され、耳にしたことのある人も多いのではないのでしょうか。
「蟲師」は、「蟲」と呼ばれる架空の怪異を扱う蟲師のギンコという男を主人公とした、美しく非常に洗練された和風ファンタジー作品です。性質上、若干の恐ろしげな描写を含んでおり、それは日本昔話の少し怖いお話の体感に似通っています。
その空気感が「営繕かるかや怪異譚」の切なさや恐ろしさとよく重なり合っており、表紙が雰囲気を抜群のものにしています。ぜひ引き続き表紙を担当してほしいと願います。
そこはかとなく恐ろしく、どこか悲しい和風ホラー作品、「営繕かるかや怪異譚」。とても読みやすい短編集ですので、ぜひ一度手に取ってみてください。

日常に根差すホラーは恐ろしいですね
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