【クリムゾンの迷宮/貴志祐介】火星の迷宮で繰り広げられるサバイバルホラー

ホラー
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クリムゾンの迷宮

タイトル:クリムゾンの迷宮
著者:貴志祐介
ジャンル:サバイバルホラー
初版発行年:1999年4月9日

おすすめな人
ハラハラする作品が好き
秀逸なサバイバル×ホラー作品が読みたい

あらすじ

藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」。それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。

クリムゾンの迷宮/角川ホラー文庫裏表紙から抜粋

火星?で行われるデスゲーム

無職で落ちぶれた40歳の藤木は、不思議な場所で目覚めました。奇妙な深紅の岩石に挟まれた峡谷という、これまで見たことのない光景。そばには水筒と、栄養食品の入ったランチボックス、そして小型のゲーム機。ゲームのスイッチを入れると、「火星の迷宮へようこそ。」の文字が。あまりに不可解な状況の中でゲーム機は、ゲームは開始され、ゴールを果たした者は賞金を勝ち取って地球に帰還することができると告げます。そして7つのCP(チェックポイント)を巡れとの指示と、CPへの方角と距離。

遠い昔にボーイスカウトで学んだ知識を活かし、CPを目指す藤木は、一人の女性と出会います。藍と名乗り、片耳に補聴器をつけた二十代の彼女は、咄嗟に藤木から逃れた際に自分のゲーム機を壊してしまいます。
藤木の一台のゲーム機を頼りに向かった先には、他に七人の男女がいました。彼らはみな、なぜこの場所にいるか分からないまま、藤木や藍と同様にゲームに巻き込まれてしまった参加者たちです。
藤木は、これはゼロサム・ゲームではないかと憶測を立てます。ゼロサム・ゲームとは、誰かが得をすれば反対に誰かが損をするということ、つまりこれはみんな仲良くクリアできるゲームではないということです。

現代では人気を博しているジャンルのデスゲームものですが、この「クリムゾンの迷宮」が刊行されたのは今から四半世紀以上も昔の1999年。とはいえ今読んでも飽きが来ることのない、貴志祐介だからこその緻密な描写と設定で、登場人物たちの息遣いが聞こえるようなリアルさがうかがわれる作品です。

秀逸なサバイバルホラー

そして本作は、デスゲームというホラーだけではなく、サバイバルというジャンルの面も強く有しています。
ゲーム機は九人の前に、それぞれ東西南北の方角には「サバイバルのためのアイテム」「護身用のアイテム」「食糧」「情報」が隠されていると表示します。彼らは手分けしてそれぞれの方角を探り、持ち帰ったものを公平に分けようと判断しました。
藤木と藍は、敢えて最も価値の怪しい「情報」を求めて北へ向かいます。
その間、藍は藤木へ、誰もが全てのアイテムを供出するわけではないだろうと強く主張します。必ず、自分の欲しいものは何処かに隠してやってくるはずだと。
二人は、向かった先で情報を得ました。それは、この場所が本当は何処であるかということ、野生動物や植物の食べ方、そしてゲーム内で入手できるアイテムの一覧。どのCPで何のアイテムが入手できるか、その重要度などを二人はリストから把握します。
だからこそ、再び集まった人々が、見つけたはずのアイテムを全て提供していないことを察しました。藍の言った通り、アイテムのいくつかを彼らはどこかに隠しているのです。
既に戦いは始まっている。藤木は嫌でもそれを理解せざるを得ませんでした。

藤木と藍は引き続き行動を共にし、CPを巡るサバイバルを開始します。幸いに二人は植物や獲物の狩り方といった情報を得ていました。しかし予期せぬ天候の変化や飲み水の確保、食料の調達といった問題が立ちはだかり、次第に心身の疲弊していくサバイバルの描写は圧巻です。
そのうえ、他のメンバーは敵と例えても過言ではない状況。生き残りを目指して迷宮を彷徨う二人の厳しい現状がリアルに伝わり、読者にも息苦しさを感じさせます。
一体、誰がなぜこのようなゲームを。その疑問を抱きつつ、藤木がどのように戦い生き残っていくのか、冒険と呼ぶよりもサバイバルを共に体感できるような一冊です。

次第に、自然や食料だけでなく、他の人々の変化も藤木たちを追いつめていきます。その理由を、アイテムリストを得ている藤木は知っていました。ゲームの主催者は、人間のサバイバルだけではなく、人間同士が殺し合うデスゲームを行わせたいようです。

貴志祐介といえば、日本ホラー小説大賞を「黒い家」で受賞した作家。
特に人間による、所謂ヒトコワのホラー描写はリアリティに満ち、展開のテンポが良く、読者に読ませる作品を書く小説家です。
25年以上前の作品と言えど侮るなかれ、映画化もした本作は読む手が止まらなくなる作品です。

先が気になって夜更かしして読みました!

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