宮沢賢治のあまり知られてないけどお気に入りの作品3選

本紹介

岩手県花巻市出身の宮沢賢治の作品は、教科書にも載っており、誰もが一度は作品を目にしたことがあるのではないでしょうか。
「銀河鉄道の夜」や「グスコーブドリの伝記」などの小説、童話、また「雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ…」の詩はあまりに有名です。
今回、宮沢賢治の作品集を五冊読み、その中から有名どころ以外で特に心に残った作品を三つ紹介します。
本当は「フランドン農学校の豚」や「貝の火」など、まだまだあってキリがありません。全容を結末まで書いていますが、青空文庫でも読めるので、ぜひ一度目を通していただけますと幸いです。

蜘蛛となめくじと狸

3匹の動物の死と自然の厳しさを描いています。

1匹目の赤い手長の蜘蛛は、ひもじいのを我慢して巣を張り、かかった蚊を食べて更に大きな巣をつくります。そしてめくらのカゲロウに、ここは宿屋だと騙して巣にかけ、喰い殺してしまいます。やがて蜘蛛はメスの蜘蛛と一緒になり、多くの子を成しますが、やがて巣にかかりすぎた獲物が腐敗し、夫婦と子ども共々身体ごと腐って死んでしまいます。

2匹目の銀色のなめくじの家にはかたつむりがやって来ました。なめくじは親切だという噂を聞き、飢えたかたつむりは露をくれるよう頼みます。快くかたつむりの願いを聞き入れて食事を与えたなめくじは、相撲をとることを要求しました。そして弱ったかたつむりを投げ飛ばし、終いには殺して食べてしまいます。意地の悪さからなめくじへの悪評が広まりますが、またもや雨蛙が家を訪問し、ここぞとばかりになめくじは相撲を提案します。そして投げ飛ばした雨蛙を襲おうとしたところ、床にまかれた塩に溶かされ死んでしまうのです。

3匹目の顔を洗わない狸は、訪れた兎に対し、山猫さまのありがたい念仏を唱えてやります。涙を流してありがたがる兎の耳を齧り、腕を齧り、最後に腹の中に収めてしまいます。そうして相手を騙す狸でしたが、やがて病気になり、身体の中に泥や水が溜まり、死んでしまいます。
蜘蛛もなめくじも狸も、ずる賢い三匹です。しかし、自然の厳しさが童話的に表されているユニークな作品のように思えます。

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二十六夜

梟鵄(きょうし)守護章という創作上のお経について、梟のお坊さんが講釈します。
このお経は疾翔大力(しっしょうたいりき)の教えを語ります。
元は非力な雀であった疾翔大力は、ある飢饉の年を迎え、多くの人々が苦しむ姿に涙を流していました。そして幼い子どもと母親の二人が飢えに苦しむのを見過ごせず、自身の食事を省みずに遠い林で見つけた木の実を親子の家へ運びます。しかし母親は全てを子どもに食べさせ、自分では一つも口にしません。最後に雀は自分の身を捧げる決意をし、自ら彼らの元へ落下します。しかし母子は生きて動くものを殺めようとはしないため、息を殺し目を瞑り、とうとう願い叶い二人を救うことができました。その功徳から疾翔大力という仏となったのです。

このお説法を熱心に聞く穂吉という子どもの梟がいました。二羽の兄弟とは違い、穂吉はふざけもせず、大人しくじっと話を聞く良い子でした。
しかし穂吉はある日、人間に捕まってしまいます。仲間の梟たちは憤りますが、穂吉を救うことができず、少しでも長く生きながら得てくれることを願います。

そして、東の空に仏様が姿を現す二十六夜に、穂吉は仲間の元に帰ってきました。その両足は人間の子どもに折られ、瀕死で捨てられていたのを発見されたのです。仲間は、人家に火をつけてやろうと怒りますが、お坊さんはそれを諫め、穂吉を心配しつつ説法を始めました。
そして金色の鎌の形のお月様がのぼる頃、梟たちは遠くに仏様の姿を見ます。皆口々に「南無疾翔大力、南無疾翔大力」と唱えます。
ありがたい姿が消えた頃、兄弟の梟が、穂吉が息をしていないことに気が付きました。穂吉はかすかに笑った姿で事切れていました。

人間の身勝手さに腹が立つ反面、穂吉の姿がとても切なくじんとくるお話でした。

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ひかりの素足

一郎と幼い弟の楢夫は父親の働く山小屋から、母のいる麓の家まで兄弟二人で帰ることにしました。同様に炭を馬で運ぶ大人の後ろをついて歩くことになったのです。しかし、馬を引く人が立ち話を始め、楢夫は早く家に帰りたがり、一郎も道は真っ直ぐなので家には帰れると思ったのです。
そして二人は山道を進みましたが、天候が急速に悪化し、雪が降るようになりました。雪に足を取られて転びつつも前進しようとしますが、吹雪ですぐに前も後ろも分からなくなってしまいます。恐ろしさに泣き出す楢夫を励まし、一郎はなんとか家を目指して歩きますが、すっかり道がわからなくなり、どうしようもなくなりました。息もできないような吹雪の中で遭難し、死を覚悟しながらも、一郎は楢夫を励まして抱きしめました。


目を覚ました一郎はぼんやりと暗い場所にいて、楢夫と再会しました。二人とも裸足で、傷ついた足からは血が流れます。一郎は楢夫を抱いて進みました。
しかし行き当たったのは、ぼろぼろの子どもたちが鬼に追い立てられてひたすら歩き続ける場所でした。鬼に命じられて列に加わった二人は歩き始めますが、地面を踏むと足に激痛が走ります。そして子どもたちが転ぶと、鬼が鞭で叩いて歩くよう命じるのです。つまずいた楢夫を一郎は必死に庇います。
やがて進めないほどひどい道で子どもたちが動けなくなった時、光の素足を持った人が目の前に現れました。その人はもう道は平らなのだと聞かせます。見ると道は平たくになっており、その人は子どもたちに立派な菓子を与え、もう怖いことはないのだと諭します。
そして一郎に向かい、足が破れても弟を見捨てなかったことを褒め、もう一度向こうの世界に帰るよう言いました。

峠で目を覚ました一郎は、助けに来た大人たちに囲まれていましたが、そばにいる楢夫は頬を赤くし微笑んで息絶えていました。

恐らく、あの世とこの世の境に現れた人は仏さまで、幼くして亡くなった子どもたちに道を示しに来たのだと思います。それでも、一郎が楢夫とともに逝くのでなく、また楢夫も生き返るのでなく、現世で離れてしまう終わりがすごく切なかったです。また、雪国では、このように遭難した子どもたちの話があることを思うと、余計に心に残る作品でした。

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