【星を継ぐもの】科学者の威信にかけて【感想】

本紹介
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星を継ぐもの

タイトル:星を継ぐもの
著者:ジェイムス・P・ホーガン
訳者:池央耿
ジャンル:SF
初版発行日:1980年5月23日(日本国内)

おすすめな人
ハードなSFを読みたい人
宇宙の謎に興味がある人

あらすじ

月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが綿密な調査の結果、驚くべき事実が判明する。死体はどの月面基地の所属でもなければ、ましてやこの世界の住人でもなかった。彼は五万年前に死亡していたのだ! 一方、木星の衛星ガニメデで、地球の物ではない宇宙船の残骸が発見される。

星を継ぐもの/創元SF文庫裏表紙

次から次に発掘される謎

物語は月で活動するとある人物を描写したプロローグから始まり、後に現代に場面転換し、原子物理学者ヴィクター・ハントを主人公とした物語が幕を開けます。

ハントは国連宇宙軍本部長のコールドウェルに呼び出され、月面でとある死体が発見されたことを告げられます。調査の結果、それは五万年も前に死んだと思われる、人間と酷似した生き物でした。果たしてそれを人間と呼ぶことは正しいのか?科学者たちはその「彼」を「チャーリー」と名付け、一体彼が何者なのかを探ります。地球人に酷似していることから、チャーリーは地球の生物から進化したのだという推論や、その可能性を否定する論が激しく戦いの火花を散らします。

そして木星の衛星、ガニメデで巨大な宇宙船が発見されました。地球のものではない宇宙船は、更に科学者たちを混乱に陥れました。それは二千五百万年も前に氷の下に埋没した物だったのです。従ってチャーリーと宇宙船は無関係、この宇宙でいったい何が起こったのか。物理学、生物学、数学、言語学……あらゆる学問を総動員して真実を暴こうとする科学者たちの物語です。

最高の頭脳たちの奮闘

ハントは煙草を銜えて火をつけた。「それはそうと」ドームのガラスに煙をふわりと吐きながら彼は言った。「木星までは長い旅になるね。下で一杯やらないか……ともあれ、ここまでは無事に来たんだし」
 ダンチェッカーはしばし思案の体だった。やがて彼はぐるりとドームの内側を見回し、はじめてハントに向き直った。
「わたしは遠慮します、ハント先生」彼は静かに言った。
 ハントはため息をついて行きかけた。
「もっとも……」ダンチェッカーの声の様子にハントはつと足を止めてふり返った。「あなたの新陳代謝が不慣れな非アルコール系飲料のショックに耐えられるようでしたら、濃いコーヒーなら、その、大歓迎ですが」
 冗談だった。何とダンチェッカーは自分から冗談を言ったのだ。
「何でも一度は試してみる主義でね」エレベーターに向かいながら、ハントは言った。

ハントとダンチェッカー博士は、およそ相容れない論の持ち主でした。
しかし調査のため木星に向かう宇宙船の中、上記の会話を交わし少しずつ協力体制に移っていきます。これこそが、コールドウェルの望んだものでした。優秀な頭脳同士が摩擦を続けるのではなく、力を貸し合って同じ問題の解決にあたる必要があると考えていたのです。科学者として生きる人々の誇り、辛苦、そして事実解明に対する熱い信念を感じました。

ネタバレあり

結局、チャーリーの起源は明確に記されませんでしたが、エピローグにじんわりさせられました。
冒頭にチャーリーとコリエルの絆を描き、彼らの苦難を想起させることによってより深みのあるラストになっています。ダンチェッカーの預言通り、きっとコリエルは生き延び、地球に辿り着いたのでしょう。しかし世紀の発見も智のない者にとってはガラクタ程度に成り下がってしまう、一つの教えを感じさせる終わり方でした。

果てしない宇宙の神秘に触れた気がします

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