タイトル:悪の教典 下
著者:貴志祐介
ジャンル:サスペンス
初版発行年:2012年8月10日
おすすめな人
緊張感のある作品を読みたい人
骨太な作品が好きな人
あらすじ
圧倒的人気を誇る教師、ハスミンこと蓮実誠司は問題解決のために裏で巧妙な細工と犯罪を重ねていた。三人の生徒が蓮実の真の貌に気づくが時すでに遅く、学園祭の準備に集まったクラスを襲う、血塗られた恐怖の一夜。蓮実による恐怖の殺戮が始まった!ミステリー界の話題を攫った超弩級エンターテインメント。
悪の教典 下/文春文庫裏表紙
本作は上下巻に渡る小説です。上巻は以下の記事で紹介しており、本記事はその続きです。
【悪の教典 上/貴志祐介】完全なるサイコパス教師をリアルに描く
木を隠すには…
蓮実は完璧な教師を演じていましたが、その狂気に気づいた生徒がいました。
彼は学校に盗聴器が仕掛けられていること、それが蓮実の仕業であることを察し、夜の校内で盗聴器を探します。しかし、わざと電波を流した蓮実に誘導されてしまいます。
蓮実は彼だけでなく、その仲間が自分の裏の顔に気づいていることを危惧しますが、その名前を暴露させる前に彼を殺してしまいました。
蓮実は子どもの頃から少しでも邪魔だと感じたものを、大人も子どもも関係なく殺してきました。
今となっては殺さなくてもよかったかもしれない。そう懐旧することはあれど、罪悪感を抱くことはありません。彼は快楽殺人者ではありませんが、人を殺すという選択に躊躇しないサイコパスなのです。
2年4組は、直に控えた学園祭でお化け屋敷をすることになっていました。
準備のためにクラスの生徒全員が教室に残り、泊まり込みで作業を続けます。その日、蓮実は一人の女子生徒の殺害を目論んでいました。学園祭の準備のごたごたの中、誰にも怪しまれず彼女を消し去る計画を実行しようとします。
しかしそれは蓮実自身にも予期せぬハプニングで失敗し、更にその関与を他の生徒にも悟られてしまいます。咄嗟にその生徒を殺し、トイレに遺体を隠した蓮見でしたが、とても後処理をする時間はありません。自分が殺人犯であることが明らかとなるのは時間の問題です。
そこで蓮実は、一つの言葉を思い出します。木を隠すには森の中。そう、この場の全員を殺してしまえば、問題は解決するのだと。
一夜の地獄絵図
蓮実は自身が脅している同僚教師の所有物だったショットガンを取りに戻り、その教師を殺人鬼に仕立て上げるため呼び出し、監禁します。生徒たちには校内放送で、不審者が一階をうろついているから絶対に下りてくるなと呼びかけました。屋上に逃げるようにとも。屋上に集まった彼らを一網打尽にする計画です。
更に、カンニング対策に使用した妨害電波を流して、生徒たちの携帯電話を圏外にします。
蓮実の親衛隊である生徒たちは屋上へ向かいますが、一部の生徒はその放送を怪しみ、教室のある三階に留まり、数名は一階の公衆電話で助けを呼ぶべく階下へ向かいます。
こうして、蓮実による虐殺の一夜が幕を開けたのでした。
校舎の両端の階段から彼らが蓮実の待ち受ける階下へ降りていく描写は緊迫感に溢れ、読者の想像をあおります。
生徒だけでなく宿直の教師を含め、校内にいる全ての者を殺害・口封じし、そして他者に濡れ衣を着せるという計画。巻き込まれた生徒たちはわけが分からないまま学校からの脱出を図り、また蓮実の助けを信じて、混乱と恐怖に陥ります。
彼らの心情描写、また生き残るための画策の現実味、これは読んでみないと中々理解しづらいですが、まるで自分が殺人鬼の徘徊する夜の校舎に迷い込んだような感覚を味わいます。
本作の著者、貴志祐介氏は、「黒い家」という作品で日本ホラー小説大賞を受賞しています。
この作品も終盤で、主人公が閉じた空間で殺人者に追われる展開がありますが、その緊迫が本作ではメインの位置づけとなっています。生き残るために必死に逃げ、戦い、信じる生徒たちを、まるで動物を狩るように射殺する蓮実。非常に恐ろしい作品ですが、エンタメ小説として高い完成度を誇っています。
2年4組の40人の生徒、そして学校に残っていた教師や他クラスの生徒たちまでもがターゲット。自らの犯行を隠すため、夜の学校から一人も生きては帰さない。蓮実の計画は成功するのか。生徒は誰も生き残れないのか。
過度にグロテスクな描写ではありませんが、自らがその場に立つようなリアリティを感じさせる作品です。恐怖を味わいたい人は、一度読んでみてください。

読了した晩は、あらゆる場面が頭をよぎって眠れませんでした…

コメント