私たち人間は、親しい人の死や喪失に悲しみを覚えます。
では人間以外の動物は、仲間の死を理解し、「悲しみ」という感情を抱くのでしょうか?
悲しみの感情と扁桃体の関係
悲しみの感情は脳の扁桃体と深い関係があります。扁桃体とは、脳の側頭部内側に存在するアーモンド形の神経構造です。アーモンドの和名を「扁桃」と呼ぶため、こうした名前が付けられました。
扁桃体は不安や恐怖といった感情に関連し、そうしたマイナスな感情によって活性化します。
扁桃体の働きが爆発してしまうことを「扁桃体ハイジャック」と呼びます。
感情のコントロールができない、つまり「切れて」しまっている状態です。
うつ病などといった精神疾患では、扁桃体の機能異常が報告されています。精神疾患の治療で使用される薬剤は、この扁桃体の働きを調整するためのものです。
仲間の死を悼む動物
類人猿やイルカなどでは、亡くなった子どもの遺体を数日間運んで守る姿が観測されています。仲間を失った動物では、普段では起こさない異常行動が度々目撃されます。
またインドでは、亡くなった小象を抱えて仲間の象達が道路をゆっくり横断する「葬列」が目撃されています。
象には、仲間の遺体に寄り添ったり触れたり、自身が鳴き声を上げたりとその死を理解し悼むような行動が見られます。
自らの死を察知した象が集まって息絶える「象の墓場」が存在する、という都市伝説もありますが、それはまた別のお話。
妻の死を嘆く狼の記録
アメリカの博物学者、シートンによって記された「シートン動物記」。この中に「狼王ロボ」のお話があります。
ロボは、とても狡猾なリーダー狼でした。
自分を捕らえようとする罠を巧妙に見抜き、5年間で2000匹以上の羊や牛を殺しました。
ロボの群れは6頭と小規模ですが精鋭ぞろいで、人々を巧妙に欺き続けました。
そのロボの死のきっかけは、妻と思われる白色の狼「ビアンカ」が捕獲され、殺されたことです。
ビアンカを失い、冷静さを欠いたロボは、遂に捕らえられてしまいます。
ロボは人間から与えられた水や食料をまったく口にせず、誇り高く死んでいきました。
今から100年以上前の作品ですが、ここからも動物が仲間に対して愛情を持ち、その死を理解するのではという推測ができます。
シートン動物記には他にも様々な動物の記録が記されています。
特に灰色熊ワーブの話は子どもながら泣きました。
犬は仲間の死を悲しむ
イタリアで、同居の仲間が死んでしまった時、残された犬にどのような変化が見られたのかというアンケート調査が426人の飼い主に対して行われました。
・注意を引こうとする行動が増えた 67% ・遊ぶことが減った 57% ・活動レベルが下がった 46% ・よく寝るようになった 35% ・食欲が減退した 32% ・声を出すことが増えた 30%
また犬たちが生前、一緒に過ごした時間の長さによる影響はありませんでした。
下記のようにも書かれています。
Behavioural changes observed, and their association with the dogs’relationship and dogs’social bonds, might be indicative of separation stress after loss.
https://www.nature.com/articles/s41598-022-05669-y
仲間を失うことは、残された犬の分離不安にも繋がる可能性が示唆されています。
分離不安とは、飼い主が出かけてしまう等で残されてしまった場合、パニックにより異常行動を起こしてしまうことです。トイレを失敗したり、家具を壊してしまったり、嘔吐や下痢等の体調不良に陥ってしまいます。
どうやら人間以外の動物も、仲間を失った時に感情の変化を抱くようです。
ペットを多頭飼育している場合、その死はとても悲しいものですが、残されたペットの心のケアも飼い主の義務として重要となるようです。
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