【神童】天才であるが故の不幸【感想】

本紹介
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神童

タイトル:神童
著者:谷崎潤一郎
ジャンル:文学
発表年:1916年(大正5年)

おすすめな人
読みやすい文豪の作品に触れたい人
考えさせられる本を読みたい人

あらすじ

小学一年生の頃から抜群の成績を修め、誰もが「神童」と褒めそやした春之助。だが、十二歳になる頃には家にこもって本を読むばかりで、無口で弱々しい少年となってしまった。才気あふれる息子を誇っていた両親も将来を憂えるようになったが、彼はますます書物の世界へのめり込んでいった。限界を知った時に新しい世界が広がる、圧倒的才能の物語。

100分間で楽しむ名作小説「神童」/角川文庫裏表紙

神童の抱える歪み

瀬川春之助は幼い頃から抜群の頭脳を持ち、自他ともに認める「神童」です。
平凡な父母は食事もまともに摂らず本ばかり読みふける息子を心配し、もっと外で遊ぶように促します。しかし春之助はそれを良しとせず、却って理解のない父母を持ってしまったことを嘆く有様でした。
家には余裕もなく、両親は春之助を奉公に出し商人にすることを望んでいました。しかし自分は偉い学者になるのだと信じてやまない春之助は、周囲に黙って中学校を受験します。そして合格し、縁あって吉兵衛という主人の元の一家で、書生として勉学を続けることになったのです。
吉兵衛には二人の子ども、お鈴と玄一という姉弟がおり、春之助は家庭教師を務めることになりました。しかし玄一はいくら勉強しても成績がすこぶる悪く、周囲と共に彼を虐めることを覚えた春之助の歪みは大きくなっていくのでした。

誰もが抱くであろう特別感

春之助の持つ全能感、自分は周囲と異なる特別な人間であるという感情は、いわゆる中二病にも近しいのではないかと感じました。
春之助はなまじ数値的な優秀さを持っていたため、周囲からも褒めそやされ自尊心を肥大させていくのです。幼い頃は純粋であれど、その自尊心が彼自身を次第に歪めていく様子に、天才という不幸を彼は生まれつき背負っていたように感じます。そこには自分より劣等な者を貶す快感も大きな一因となりました。
例え優秀な成績を修めたとしても、弱い者いじめを覚えた春之助の人間性はとても「神童」と呼べるものではありません。
しかし、誰もが成長の過程で自身への特別感を経験するとすれば、これは他人事ではありません。仮に、本当に「特別」なものを持っていたとしても、他人に対して驕り高ぶる心があればどうなってしまうのか。春之助を通した教訓を得られる物語であったように思われます。


ネタバレあり

元は整った顔立ちをしていたのが、最後の段には醜い容姿に成り果て、更に自分の神童を構築する頭脳さえも失っていく恐ろしい様子が描写されています。
もっとも、それは自分の才能の限界を感じた春之助の妄想であったようにも読み取れました。
どちらにしても、内面を腐らせてしまえばそれは外面への認識にも通用してしまう。気を新たに引き締める良い機会を読者に与える作品でした。

他人を貶めてはならない。謙虚な気持ちが大事ですね

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