【幽霊人命救助隊/高野和明】幽霊が人の命を救う【感想】

ミステリ
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幽霊人命救助隊

タイトル:幽霊人命救助隊
著者:高野和明
ジャンル:ミステリー・ヒューマンドラマ
初版発行日:2004年4月10日

おすすめな人
コメディタッチな良作が読みたい
生と死について考えたい

あらすじ

浪人生の高岡裕一は、奇妙な断崖の上で3人の男女に出会った。老ヤクザ、気弱な中年男、アンニュイな若い女。そこへ神が現れ、天国行きの条件に、自殺志願者100人の命を救えと命令する。裕一たちは自殺した幽霊だったのだ。地上に戻った彼らが繰り広げる怒涛の救助作戦。傑作エンタテイメント、遂に文庫化!

幽霊人命救助隊/文春文庫裏表紙

幽霊が人の命を救う?

主人公の裕一は19歳で首を括り自殺を遂げました。死後彼が出会ったのは、同じく自殺既遂者の幽霊たち。そこへ神様が現れ、これから自殺志願者100人の命を救えば、天国に送ってやると告げます。そして裕一たちは再び地上に戻ることとなりました。しかし幽霊として。

彼らは生きている人間に触れることも話すことも出来ず、おまけに扉や壁をくぐりぬけることも不可能です。
ドア一枚開けられない四人は途方に暮れますが、救助隊員として与えられたアイテムを駆使し、力を合わせて自殺志願者を見つけ、救助にあたります。
しかしタイムリミットは四十九日。全てが手探りの中、彼らは果たして100人もの命を救うことができるのか?


自殺者を救うという重いテーマでありながら、非常にコミカルで目の前に光景が浮かぶような文章力に引き込まれます。600頁に近い分量ながら、ページをめくる手が止まりませんでした。
まるで映画を観ているような感覚は、作者の高野氏が映画畑の方であることも深い一因ではないかと思います。
それでも描写力だけでなく、人心に対する洞察力にも舌を巻きました。障害者の娘を持つ母親、家庭内不和といじめに苦しむ小学生、ひどいうつ病に罹患しつつ必死に勤務する会社員。
どの人物像も鮮やかで、深い心情表現に思わず涙を誘われることもしばしば。どうにかして救ってあげてと救助隊にエールを送らざるを得ません。

そしてちょっとしたギャグやコメディタッチな文章が、作品を暗い憂鬱から救っています。驚くことに、全くわざとらしくないのです。
コメディ的な描写は下手をすれば、読む側にわざとらしさや計算を見抜かれ、所謂「さむい」演出になりがちな気がします。それが全くないことに驚愕しました。小説や映画だけでなく、筆者はお笑いの世界にも通用する才能の持ち主だと思います。

死ぬまでのことはない

私がこの作品を読んで感じたのは、自ら命を絶つべき苦しみなど、そうそうないということです。

人はいつも言い訳を見つけて生き延びるのに、それができない人がいた。運転する車で、子どもを轢いてしまった会社員。
環境が悪いのに、全部自分のせいにして引き受けてしまう聖人がいた。親の借金を返すために、泡にまみれた部屋で春をひさぐ若い女。尽くせば尽くすほど蔑まれる。
人の世は気まぐれだ。冷淡かと思えば意外に温かく、頼ろうとすれば突き放される。そんな世間に甘え過ぎて、二度と頼れなくなった男がいた。返せない借金を繰り返し、親戚や知人に顔向けできなくなって、ゴミを漁っているホームレス。

幽霊人命救助隊/高野和明

自死を選んでしまう人は、真面目なのです。その真面目さゆえに自分へ言い訳ができず、ズルすることも休むこともできず、死ぬことしか道を見つけられなくなるのです。
ある人の自殺の原因となったものも、ある人から見れば大した事件ではないのかもしれません。捉え方、心の動き方次第で、死という選択肢を選ぶ必要性はなくなるのです。
しかし既に赤信号、死しか選べない人間を救助隊は必死に救っていきます。

死を急ぐ人たちに対して、救助隊は「待て」と言い続けた。待つ手段はいくらでもある。休息をとる方法だっていくらでもある。ただ漠然とした生きる虚しさにも、相談に乗ってくれる専門家はいる。辛い現実から逃げるのは端ではない。頑張る必要はどこにもない。とにかく寿命が来るのを待て。

幽霊人命救助隊/高野和明

ただ一つだけ、死んではいけない。寿命を待たず、自ら死んではいけない。
うつ病、借金、いじめ、病気、過去……人生にはあらゆる障害がありますが、生きるためならとにかく逃げればいい。死ぬようなことなんて一つもない。突破口は必ずある、死ぬしかない人にはそれが見えていないだけ。全ては捉え方、感じ方。ほんの少し風向きが変われば、人生の価値に気が付くはず。
あらゆることを考えさせられる小説でした。終わり方も非常に良かったです。
今後の人生を生きていくためにも、一度読んでおけばきっと気持ちが楽になると思える作品でした。

高野さんの作品にはハズレがない…!

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